【日本刀獅龍杉王剣 初斬り】
今回はもう書きたいだけ書かせてもらいます!
晶平刀匠に注文打ちをしてもらった私の日本刀、獅龍杉王剣(しりゅうざんのうけん)初斬りがこちらの映像です。
玉鋼からここに至るまでで約2年。(令和5年5月の時点)
本来絶対に途中段階で試し斬りなんかありえないのですが、「仕上がった瞬間に傷や汚れが入るよりは、、、」とうことで、晶平刀匠と研師の水田さんのご理解を得て実現することが出来ました。
この撮影の、一つ前の撮影でそのような流れになり「やってみる?」と。
当然、自分は普通に藁を立てて基本的な袈裟斬りで試すつもりだったのですが、、、
動画の撮影・編集をしてくれている弟の一言。
「え? 普通に斬るん?」
…おいおい、ちょっと待て。
そりゃ普通に斬るでしょう? いくら晶平さんの刀とはいえ、まず本当に斬れるかどうか試さないといけないし、バランスや物打ち(切先から5㎝ほど中に入った一番きれる場所)の具合や位置も知りたいし。 そもそも装飾品も出来てないので鍔や柄(持ち手の部分)もない裸の状態。力なんか入らないから、藁にどれくらい食い込むのかな〜を見るくらいしか出来ない。
それを説明したのに、
「え? でもその刀とはそういう付き合い方(共に挑戦していくような)をしていくんちゃうん? 最初がそれでええの? 初めては一回しかないのに後悔せん?」
…オマエなんちゅうことをブッコんでくんねん。
いや、そりゃやりたいよ? 今の計画では、おそらく挑戦的な斬りをするのはまたさらに2年後くらいになってしまうし。
って、やめろやめろ! そもそもこの動画を撮らせてもらってる事自体異例中の異例。 刀鍛冶さん、研師さんを前にそんな希望言えるかよ、お仕事に対して失礼なことかもしれないし。
そう思って、横目でチラッと晶平さんの様子を伺う。 うつむき何やらじっと考えてる様子。
「…自分も使ったことはありませんが、ほとんどの刀の形状に調整できる試し斬り用の柄というものがあるそうです…」
ん? 晶平さん??
続いて水田さんをチラッ。
「確かに、仕上げてからすぐ傷が入ってしまうよりは今がチャンスですね。改正砥石状態が一番斬れますし。」
へ〜、そうなんだ?
…いやいやいや! そうではなくて!!
怖いよ、いきなり自分の最高技に挑戦するのは!! もし斬ってる途中、空中で刀が止まって抜けなくなったらどうすんの!?
刀が折れちゃう曲がっちゃう! 俺の大事な相棒が!! 下手すりゃ俺の命も!
そんなこと思いつつも、ワクワクとドキドキで血がザワザワしてる俺もいる?
「え、、、 う〜 じゃあとりあえず、そんなスペースがあるか見てみる、、、?」
日本刀は法律的に私有地や許可のある場所でないと扱えないので、表に出て鍛刀道場のお庭をチェック。
ちなみに晶平刀匠とは「大人の夏休み」と称して、こちらでバーベキューなどして遊んでくださったのが仲良くさせてもらうきっかけだった。
え〜と助走距離はこれくらい必要で、トランポリンここにおいて、この傾斜は避けたいからマットはこっちにセッティングして、、、
うん、、、挑戦できなくはない。 理論上は。
なんてこった、ダメな理由がなくなってしまった。 怖い、流れが怖い。
「じ、じゃあ当日の状況で、体調だったり時間だったりみて、もしやれそうだったら?(汗)」
言っちまった〜! なんてことしちまったんだーー!
もう頭の中は「斬れなかったらどうしよう?」の一色。 まず晶平刀匠に申し訳ない。 いらっしゃる皆様も落胆させてしまう。 膨大な時間とコストをかけて作ったこの日本刀にケチなイメージがついてしまう。
絶対に失敗出来ない! プレッシャーで吐きそう…完璧なパフォーマンスをしなければ。
その日から本番日まで、ひっさしぶりに追い込みました。食事管理とフィジカルトレーニングとメンタルトレーニングを徹底し、毎日命がけだったスタンントマン全盛期の体と感覚と集中力を取り戻した。 もうこれだけでも挑戦して良かったと思えるくらい。
さて本番当日。
私は思いっきり遅刻しましたw w
いや、朝早く起きて準備はしてたの。でもすぐに脳内がイメージトレーニングを初めてしまい、手が止まって準備が進まない。気がつけば時計の針は進んでる。そんなことの繰り返し。
周りにも励ましてもらい、「失敗してもドラマじゃ!」と開き直れるくらいのメンタルにはなっていたのですが、それでも出来ることなら成功させてたい。
だからもう準備してもしても満たされない…!
そんなこんなから、ようやく今回の動画に続きます。
銘切りをし、名前がついたことで本当に自分の刀なんだなと実感し、ますます怖い。触りたくないとすら思いました。
恐る恐る持つ。 …やっぱめっちゃ重い〜泣 物理的な重量だけじゃなく、なんか色々なものが載っかってて重い。
衣装に着替え、木刀で何度もリハーサルをし、「もしこういうトラブルが起きた時はこう受け身をとる!刀は絶対守る!」と想定できるミス全てに対処法をイメージしておく。ことある事にため息が出る。 逃げ出してぇ〜
いよいよ時間が迫ってきた。
次に刀を持ったとき、あれ?っと思った。馴染んできてる、、、いや、発するエネルギーは相変わらず凄いんですが、なんか今の俺に合わせてくれてる?
急に一体感が生まれ、ちょっと出来る気がしてくる。
斬る前には刀匠に御神酒をいただきクイッと。
お酒弱い自分としては呑みすぎた量で「あっ…」と思いましたが、さすがに全く酔わない。全てのノイズを集中力で封印できる。
久しぶりの感覚だ…
動画の自分は一人ブツブツとうるさいですが、スタートしてしまったら一つの事しか考えられなくなるので、それ以外の細かいこと全てをここでインストールしています。 これはスタントマン時代もモーションアクターの今も同じ。
ゾーン入ったときの自分ってこんな顔してるんだなって、今回初めて気づきました。
スタントマンはそんな表情が映されることはないし、モーションアクターはCGに置き換わるので。
結果は見てもらった通りです。
当日お付き合いいただいた仲間たち、先生方、応援に駆けつけてくださった皆様、本当にありがとうございました。
この日の事は忘れません!
最後にもう一つ。
これを映像に収めることが出来たのは色々な奇跡が重なってます。
でも、中でもやっぱり弟の存在は特別。
上記のぶっ込みもそうですが、彼がいなかったら実現しなかったであろうことが、この「日本刀ができるまで」のシリーズには沢山あります。
今回も、ゾーンに入ったときなんか本当は誰の介入も許したくない。自分の間とタイミングで、捨てた命をもう一度拾いにいくようなことを内部では行なっております。 だから、本当はチームプレイ苦手なんです。最高のパフォーマンスを発揮できるのは、いつも誰もいない一人の空間だった。
それを貴洋が兄の習性をわかってくれて、面倒くさい地雷やノイズを生むような部分を配慮・回避しつつ、自分の仕事を完璧に成し遂げてくれたおかげでこの映像が撮れました。 ギリギリまでカメラ近づけてくれて、心決めて「行く」と発してから俺が再び集中する段取りやマネジメントをし、ここしかないであろう位置と画角でカメラに捉えてくれた。
これは俺たち兄弟じゃなかったら誰も出来なかっただろうと胸を張って言い切れる。 自己満ですが、俺にとって宝物の映像作品です。
いつかまたこんなヒリヒリする合作をやってみたい。それまでに俺も、さらに技術的にも人間的にも成長しておきたい。
そんな気持ちにさせてくれる「獅龍杉王剣」の初斬りでした。 貴洋よ、ありがとう。
もうちょっとだけ続くので、ぜひぜひ最後の完成まで見守ってやってくださいませ。
いつかこの映像をご覧いただいた皆様にも、この子の生のパフォーマンスを観てもらえますように!
よーし、今日も仕事がんばろっーー!! おーーっ!!
杉口秀樹